渋谷の喫茶店で、二十代の甥と話していて違和感を覚えた。こっちが日常的に使う「マジで?」が、彼の耳には古くは響かないまでも、一瞬「おじさん言葉」の層に分類されたのが見えた。数年前にはそんなことはなかったのに、である。
俗語の寿命
若者言葉 わかものことばyoung people's slangの寿命は短い。言語学者の調査によれば、新しい若者語が生まれてから、世代を超えて定着するまでの平均は十年から十五年。そして定着した瞬間に、次の世代は別の言葉を選びはじめる。
三つの例
「ヤバい」— 否定から肯定へ
ヤバい やばい(originally) dangerous; (now) amazing / intense は、もともと「都合が悪い」「危険」を意味する俗語で、江戸時代の隠語が起源とされる。二十世紀末まで、この語はほぼ否定的だった。
二〇〇〇年代に入って、若者が「ヤバい、これおいしい」のように肯定的文脈で使い始めた。当初は違和感が強かったが、現在では完全に定着し、辞書にも肯定的用法が載る。ただし、四十代以上の世代では、まだ否定の響きが残っている人もいる。
「マジ」— 強調から形骸へ
マジ まじseriously / really (intensifier) は「真面目(まじめ)」の略で、江戸時代の芸人の隠語に起源がある。一九八〇年代の若者文化で表に出てきて、九十年代にピークを迎えた。
二〇一〇年代以降、この語は若者より中年世代の使用率のほうが高くなった。つまり、マジを使う人は、もはや若者ではない。十代の間では別の強調語 — 「ガチ」「ほんまに」(関西発) — が優勢になっている。
「ガチ」— まだ若い言葉
ガチ がちfor real / serious (younger than maji) は「ガチンコ」の略で、二〇〇〇年代後半にテレビのバラエティ経由で広まった。当初は格闘技の「真剣勝負」を指したが、いまは「マジ」より一段強い副詞として使われる。
なぜ古くなるのか
俗語が古くなるメカニズムは、意味の固定化 こていかfixation / crystallisationと関係がある。新しい語は、最初は意味が曖昧で、使い方に余白がある。その余白が、若者にとっての魅力だった。
しかし時間が経つと、意味が固定される。辞書に載り、中年が使い始める。すると、若者にとっての「区別のための道具」としての機能が失われ、別の曖昧な語が新たに選ばれる。
観察の態度として
俗語の変化を追うのは、単に言葉の流行を知るためではなく、世代がどこに線を引こうとしているかを読む手がかりになる。世代 せだいgenerationの断層は、経済指標では見えにくいが、言葉の選び方には明瞭に現れる。
「ヤバい」を肯定的に使う上司に、若手が親世代だな、と感じる瞬間 — そこに、微かな世代の断層 だんそうfault line; ruptureが見えている。
関連記事として時候 じこうthe seasonの挨拶もある。こちらは逆に、何百年も変わらない定型語彙の話だ。