日本語を学び始めた人が、ある時期に気づく。「海」「湖」「池」「波」「涙」「酒」— 全部、左側に三つの点がある。偶然ではなく、これは水に関わる字だと明示する記号だ。
氵は、水である
部首 ぶしゅradical (kanji component)とは、漢字を構成する部品のうち、意味の手がかりになるものを指す。氵は「さんずい」と呼ばれ、水 みずwaterの変形で、左側に置かれる形に縮められている。
古代中国の甲骨文字では、「水」はまだ絵だった。川の蛇行と、岸辺の水しぶきを表す線の集合。それが紀元前千年ほどの間に、三本の短い線 — 水滴、流れ、波 — に抽象化されて、偏として使えるようになった。
意符と音符
漢字の多くは、意味を表す部分と音を表す部分の組み合わせでできている。これを形声文字 けいせいもじphono-semantic compound characterと呼ぶ。
例えば「清」という字は、氵(意味:水)+ 青(音:セイ)。水に関係があって、発音がセイと近い、という二層構造。こう考えると、知らない漢字に出会っても、「これは水に関係のある字で、たぶんこう読む」という推測ができる。
水の字の広がり
氵を持つ漢字の意味の広がりは、単純な「水」の範囲を超える。
直接に水を指す字:海、川、湖、池、沼、泉。液体を広く指す字:油、酒、汁、液。水に関係する動詞:流、泳、洗、浴、注、沈。自然現象:波、潮、滝、氷。
さらに広がって、感情や抽象概念にも水のイメージが使われる。涙、湿、澄、濁、深、浅 — 液体の性質から、心や空間の状態を表す語が派生している。
和製の字もある
氵を使った漢字の中には、中国には存在しない、日本独自の国字 こくじkanji invented in Japanもある。漁業や気象が生活に深く関わっていたため、中国にはない水に関する概念が、独自の字として生まれた。
たとえば凪 なぎcalm (wind/sea)は厳密には氵ではなく風の部首を使うが、日本の海辺の生活が生んだ一字だ。滝 たきwaterfallの一部の異体字も、日本起源とされる。
覚え方の地図として
漢字を「読めない絵」ではなく、「意味と音の組み合わせパズル」として見始めると、学習の手応えが変わる。氵を見たら水、扌を見たら手、亻を見たら人 — この小さな地図を持っているかどうかで、新しい字に出会ったときの反応がまったく違う。
漢字 かんじChinese characters as used in Japaneseは数万字あると言われるが、常用漢字は約 2,100 字。その大半が十数種類の部首に分類される。記憶すべき単位は、実はそれほど多くない。
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